『ビールと古本のプラハ』

チェコは、良質なホップを贅沢に使用してビールを醸造出来るので相当美味しい(らしい)。国民一人当たりの消費量も凄まじいようで、2002年 国別一人当たりビール消費量を見てみると、堂々の第一位!!です。(最近1位の座を譲ることになったという噂を聞いたような気もしますが・・・詳しい方教えてください〜)統計によると、日本の約3倍近い量のビールを飲んでいることになります!!(2002年時) ビールの消費量も凄いですが、味、品質への拘りも相当なもののなようです。
【旅-新創刊第2号】の【チェコ 万華鏡】という特集の中に、恩田陸さんによる【7段目】というコラムが載っていたのですが、(書くのが遅すぎてもうこの号は売っていません。)このコラムの中で、チェコ人のビールへの温度の拘りが伺える、イジー・メンツル監督のチェコ映画『スイート・スイート・ヴィレッジ』の1シーンが紹介されています。そのシーンとは、医者(ルドルフ・フルシーンスキー)*1と運転手パヴェク(マリアン・ラブダ)*2との会話の中に、地下室への階段の【7段目】にビールを置くとちょうどいい温度に冷えるという台詞なのですが、『6段目では暖かいし、8段目ではもう冷えすぎ』とのことです。(最初観た時は全く気が付かなかったので、最近見直して確認しました。)映画に出てくるビールは瓶ビールなので、冷蔵庫で冷やせばよいのでは?!と野暮なことを思ったりもしましたが、どうやらチェコでは冷蔵庫ではなく地下室でビールを冷蔵するようです。細かいことを気にしだすと、おかしな点もありそうですが、ビールの温度に対する拘りの現れた面白いエピソードだと思いました。
ビールと言えば、ヤン・シュヴァンクマイエルの『男のゲーム』ではやたらビールを飲みながら、サッカー?!を観戦する人や、シュヴァンクマイエルが特殊撮影で参加しているオルドジフ・リプスキー監督の『アデラ』の中でも、ミハイル・ドチョロマンスキー扮するニック・カーターと相棒、レドビナ警部(ルドルフ・フルシーンスキー)がプラハのビアホールをハシゴしてビールを浴びるように飲むシーンも印象的で、ジョッキから溢れ出しそうなビールの泡を飲む前に、『フッ』と吹くのが観ていて楽しい。
チェコ人のビールへの拘りに触れることは、今後、これらの映像作品を見直すときにも、なんらかのプラスになりそうだなと思いました。恩田さんのコラムの中で、チェコ人のビールへの拘りは、千野栄一さんの『ビールと古本のプラハ』とうエッセイに詳しいという紹介があり、『ビール』と『古本』 !!魅力高なキーワードの盛り込まれたタイトルに一気にやられてしまったこともあり、気が付いたらこのエッセイを注文していました。

エッセイの中で興味深かったのは、【チェコ人が普通に飲むビールは生で、プラハならどの街角にもビアホールがあり、家庭でもピッチャーを持って買いにいくのが普通である。余程のことがなければ瓶のビールは飲まないし、ましてや缶は飲まない。】というところ。映画『スイート・スイート・ヴィレッジ』は、郊外の小さな村を舞台にした話なので、瓶ビールが主流なのでしょうが、瓶ビールをひたすら飲みながら試合?!を観戦する『男のゲーム』は、競技場から近い市街地の共同住宅の一室が設定で、プラハではないとしてもビアホールは普通にありそうなのですが・・・冷蔵庫に瓶ビールの山。地下室があれば、そこにビールを保存するのでしょうが、冷蔵庫に入れているということは地下室もなさそう。いやいや、ヤン・シュヴァンクマイエルの『オテサーネク』とか観ていると共同住宅には、普通に地下室はありそうなので、地下室はあるけれど使っていないと考えるのが素直そう。部屋の壁を埋め尽くすヒイキチーム?!の写真の数々、チェコ人が拘るビールの飲み方への執着は皆無(ビールに変なもの?!を入れて飲んでいるので独特なこだわりはありそうですが)・・・ということは、主人公は引きこもりという設定ですね。(飛躍しすぎ?!)そう考えると、冒頭に挿入される、競技場に雪崩込む熱狂的な群衆と、テレビの前で淡々と観戦する引きこもり主人公の対比は興味深いです。熱狂する群集のいる競技場を離れて、引きこもり男の部屋に雪崩込む選手、そしてそこで『男のゲーム』の続きを繰り広げる・・・うーん、意味深ですね。(というか、かなり変な方向に深読みしていますね。根拠がいまいちなので、この辺でやめておきます。)かなり乱暴な推測を働かせているので、この辺は今後、時間をかけて検証することにします。(予定?!)
あと、チェコのビールは、地域によって銘柄が異なるようで、ピルゼンの『プラズドロイ』、チェスケー・ブジョヨヴィツェの『ブドヴァル』あたりが美味しいらしく、プラハに数多くあるビアホールも、それぞれ扱う銘柄が限定されているようです。リプスキー監督の『アデラ』の中で、ひたすらビアホール巡りをするシーンを観て、1つのビアホールでいろいろ飲めばいいのに、と思ってしまったのですが、どうやら銘柄の異なるビールを堪能していたようです。ちなみに、ビールを飲む前に泡をフッと吹くのは、『ビールと古本のプラハ』の中でも、何度か出てきたので、普通に行われている飲み方なのかもしれません。
自分は、『ブドヴァル』(日本売られているものはバドバーと表記されています。)の瓶ビールを頂いて飲んだときに、日本のビールより上品で飲みやすく美味しいという感想を持ったのですが、チェコで生ビールを飲んだ人に聞くと、瓶と生とでは比べようにならないほど、生の方が美味しいらしいです。しかも、一杯100円程度らしいので、ビール好きには堪らなく魅力的な国のようです。チェコでビアホール巡りしたいものです。

感想下手なので、『ビールと古本のプラハ』の良さをうまく表現できていないかもしれませんが、チェコに興味がある自分にとってこのエッセイはとても面白く、最近購入したのに4回くらい読んでいます。チェコ好きでまだこの本を手にしたことがない方は、本屋で見かけたら、ペラペラとページをめくってみて下さい。お薦めです。
最後に、『ビールと古本のプラハ』の中にある【ビールへのこだわり】の中から、興味深い部分を引用させて頂きます。自分は、これを読んでチェコのビアホールへの興味がかなり高まりましたw。


いいビアホールの資格(『ビールと古本のプラハ』より)
◆1年中6度の温度を保つビール樽を保管する地下室がなければならない。
(絹漉のようないい泡を出す為)*3
◆樽から上のカウンターまでのとても長いパイプをよく洗わなければならない。
(よく洗わないとビールは苦くなる。)
◆新しい樽を開けたら、最初に出てくる不規則な泡のビールを捨てることである。*4
注ぎ方
◆半リットルのジョッキを回すようにして静かに一気に注ぐのがいい。
補足
◆ビールは一年中おいしいわけではなく、秋は味が落ちる。
(新しいホップが出回る10月中頃から11月にかけておいしくなる。)*5


関連:
ヤン・シュヴァンクマイエルの『男のゲーム』
[DVD]【シュヴァンクマイエルの不思議な世界(1967-1989)収録】
http://d.hatena.ne.jp/unun/19190105
[DVD]【アデラ/ニック・カーター、プラハの対決】
http://d.hatena.ne.jp/unun/19190118

千野栄一さん関連(当方所有分):
[book]【チャペックの本棚】ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン
ISBN:4894442493
[book] 【存在の耐えられない軽さ】集英社文庫
ミラン・クンデラ (著), 千野 栄一
ISBN:087603512

[DVD]【存在の耐えられない軽さ】本日(6/18)廉価版にて再発売
ISBN:000232BMU

*1:今回色々調べていて、『アデラ』のレドビナ警部役をやっていたことに、初めて気が付きました。ということは『カルパテ城の謎』のオーファニック教授も演じていたことになりますね。以前、チェコに詳しい方が、常連の俳優さんを見つけ出すのもチェコ映画の楽しみ方のひとつ、と教えてくださったのですが、ホントその通りです。もっと観たいぞーチェコ映画!!レンタル屋の枠を広げて下さいー。

*2:スロヴァキアのマルティン・シュリーク監督による『ガーデン』に、ヤクプのオヤジ役として出演しています。『ガーデン』では愛嬌のあるダメオヤジっぷりがステキでしたが、『スイート・スイート・ヴィレッジ』では、しっかりものの役柄で多少物足りない感もありますが、お腹の出具合は必見でございます。

*3:6度より低いと泡がしぼんでしまい、高いとブクブクになる。ちなみに気温がチェコより高い日本では、これよりやや低めに調整しているようである。『ビールと古本のプラハ』より

*4:プラハの通のいくビアホールでは最初に樽から出る半リットル20杯カウンターに並べて見せ、それを全部捨てて21杯目から客に出す。『ビールと古本のプラハ』より

*5:チェコのホップは世界一で、日本のビール関係者にはドイツ名のザーツで知られるジャテッツのホップは世界のホップの値段をリードする。『ビールと古本のプラハ』より